「O157(腸管出血性大腸菌)」は、主に加熱不十分な牛肉・生レバーなどの食品、野菜や果物(牛の糞便で汚染された土壌・井戸水経由)、感染者の便を介した人から人への二次感染、そして動物との直接接触(乳搾り体験など)から感染します。わずか50〜100個という極めて少ない菌数で発症し、重症化すると「溶血性尿毒症症候群(HUS)」を引き起こす危険な食中毒菌です。
このコラムでは、サニクリーンのおそうじマイスターが、感染経路、症状、そして家庭で実践できる予防方法をご紹介します。
このコラムでお伝えするポイント
- O157は50~100個の菌で発症する強力な食中毒菌
- 感染経路は加熱不足の肉、汚染野菜・井戸水、人、動物など
- 6~7%が重症化。乳幼児・高齢者は特に注意
- 予防は正しい手洗い、肉の十分な加熱、野菜の流水洗浄、トイレの消毒など
O157とは?基礎知識と感染力の強さ
ここでは、O157の特徴、一般的な食中毒菌との違い、そして発症のメカニズムと重症化リスクについて解説します。
わずか50〜100個の菌で発症する強力な病原菌
O157(腸管出血性大腸菌)は、ベロ毒素をつくる食中毒菌です。一般的な食中毒菌であるサルモネラ属菌は、感染するために10万~100万個程度の菌数が必要とされています。しかし、O157はその100分の1以下という少ない菌数でも感染する恐れがあります。
| 病原体 | 感染成立に必要な菌数 |
| O157(腸管出血性大腸菌) | 50個から |
| サルモネラ属菌 | 10万個から |
| 腸炎ビブリオ | 10万個から |
| カンピロバクター | 500〜1万個 |
潜伏期間や主な症状など

O157の潜伏期間、典型的な症状、そして重症化した場合のリスクは以下の通りです。
| 潜伏期間 | 3〜5日(他の食中毒菌より長い) |
| 主な症状 | 激しい腹痛、水様性下痢の後に血便 |
| 重症化 | 溶血性尿毒症症候群(HUS)を6〜7%で発症 |
<溶血性尿毒症症候群(HUS)とは>
「溶血性尿毒症症候群(HUS/Hemolytic Uremic Syndrome)」は、主にO157に感染した後に発症する重篤な合併症です。乳幼児や高齢者に多くみられ、重症化すると命に関わることもあるため注意が必要です。
HUSでは、体の中で次の3つの異常が同時に起こります。
1つ目は「溶血」で、赤血球が壊れることにより貧血を起こします。
2つ目は「血小板減少」で、出血を止める働きをする血小板が減少します。
3つ目は「急性腎障害」で、腎臓の機能が急激に低下します。
原因は、O157が産生するベロ毒素です。この毒素が血管の内側を傷つけ、特に腎臓の細い血管に障害を与えることで発症します。
主な症状としては、顔色の不良(貧血)、尿量の減少、むくみ、けいれん、意識障害などです。重症の場合は透析治療が必要になることもあります。
O157に感染した人のうち、約3〜7%がHUSを発症すると報告されています。また、HUSの致死率は1〜5%とされています。
O157の感染経路①「食品からの感染と対策」
生肉や加熱不足の肉類、そして野菜などからの感染リスクと対策についてご紹介します。
生肉・加熱不足の肉類からの感染リスク

O157は、牛などの反すう動物の腸内に生息している菌です。そのため、食肉処理の過程で、肉の表面に付着することがあります。
特に注意が必要なのが「成型肉(結着肉)」です。成型肉は、細かくした肉を成形して作るため、菌が肉の内部まで入り込む可能性があります。その場合、表面だけを加熱しても十分とはいえません。中心部までしっかり加熱する必要があります。
<対策>
・購入時:パッケージに「成型肉」「結着肉」の表示を確認
・調理時:中心部まで75℃で1分間以上加熱
・外食時:ステーキは「ウェルダン(しっかり焼き)」を注文
野菜・果物、井戸水などからの感染リスク

O157は、牛の糞便による土壌汚染が原因となり、野菜や果物、また井戸水を介して感染することもあります。牛の糞便に含まれる菌は、さまざまな経路を通じて広がります。
<主な感染経路>
(1)牛の糞便 → 堆肥 → 畑の土壌 → 野菜の表面が汚染される→感染
(2)牛の糞便 → 地下水 → 井戸水 → 飲料水・調理用水が汚染される→感染
(3)牛の糞便 → 河川 → 灌漑(かんがい)用水 → 野菜への散水→ 野菜の表面が汚染される→感染
<対策>
O157対策に有効な野菜の洗い方や井戸水を使う場合の注意点をご紹介します。
(1)野菜は「流水」でしっかり洗う

・野菜は必ず「流水」で洗うのが基本。ボウルに水をためて洗うだけでは、菌が再付着する可能性があります。
・葉物野菜は1枚ずつはがして、葉の重なり部分まで丁寧に洗いましょう。
※O157は少ない菌数でも感染するため、「軽く流すだけ」では不十分です。
(2)野菜は洗ってから切る
先に切ってしまうと、表面の菌が包丁を介して内部まで広がる可能性があります。衛生のためにも、野菜は必ず洗ってから切るとより安全です。
(3)調理器具・手指の衛生管理も重要
・生肉を扱った後の手で野菜に触れない。
・包丁やまな板は、肉用と野菜用を分けるのが理想です。
・使用後は、十分な洗浄・乾燥を行いましょう。
(4)可能なら「加熱」処理も

・O157は中心温度75℃で1分以上の加熱で死滅します。
・小さな子どもや高齢者が食べる場合は、特に加熱調理が安心です。
(5)井戸水を使用している場合
井戸水は定期的な水質検査を行いましょう。異常がある場合は、煮沸してから使用します。
O157の感染経路②「人から人への二次感染と対策」
トイレやおむつ交換後の手指を介した家庭内二次感染の危険性と、その対策についてご紹介します。
トイレ後の手指の危険性

O157に感染した人の便には、非常に多くの菌が含まれているとされています。そのため、トイレ使用後の十分な手洗いや、おむつ交換後の手指消毒の徹底が、家庭内での二次感染を防ぐうえで重要になります。
二次感染が起きやすい場所
以下は、家庭内で二次感染が発生しやすい具体的な接触場所です。

(1)トイレのドアノブ、水洗レバー、便座
(2)おむつ交換台、ベビーベッド柵
(3)タオル(共用) など
家庭内感染を防ぐ5つの対策
家庭内での二次感染を予防する実践的な5つの対策をご紹介します。
【対策.1】トイレの蓋を閉めて流す

水流による飛沫拡散を防止する(便器周囲2メートルまで飛散することもある)。
【対策.2】手洗いの徹底
トイレ後、おむつ交換後、調理前は必ず手洗いする(できればアルコール消毒も行う)。
【対策.3】タオルの個別使用

個人の専用タオルを使用。
【対策.4】トイレ・洗面所の消毒
「次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)」で1日1回を目安に拭き掃除。
【対策.5】症状がある家族は調理をしない
下痢・腹痛がある間は調理に従事しない。
この中にある「次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)で1日1回拭き掃除」とは、ハイターなどの塩素系漂白剤を100倍に薄めた消毒液を作り、トイレや洗面所の手が触れる場所を毎日1回拭き掃除することです(消毒液で拭いた後は水拭きをします)。
作業の際は必ず換気を行い、ゴム手袋を着用してください。この方法により、O157を含む腸管出血性大腸菌による家庭内二次感染を効果的に予防できます。
O157の感染経路③「動物とのふれあいからの感染と対策」

牧場での乳搾り体験や動物園のふれあいコーナーなど、動物との接触によるO157の感染リスクと対策をご紹介します。牛・羊・ヤギなどの反すう動物はO157を保菌している可能性があり、実際に牧場の乳搾り体験や動物園のふれあいコーナーで集団感染が発生しています。動物自身は無症状ですが、糞便や体毛にO157が付着している可能性があります。
<対策>
動物とのふれあい体験時に守るべき4つの具体的な注意事項です。
(1)触った後は手洗い・アルコール消毒をする。
(2)動物の糞便に触れない
(3)動物に口づけしない、顔を近づけない
(4)動物のいる場所で飲食しない
手洗いの重要性と正しい方法

手洗いは、O157の感染を防ぐ有効な手段の一つです。ここでは手洗いの効果と正しい手洗方法をご紹介します。
正しい手洗いは菌数を大幅に減らせる
サラヤ株式会社の実験では、段階的な手洗いによる菌減少効果が以下のように実証されています。
<手洗い効果>
(1)流水のみ:菌数変化なし(100%)
(2)石鹸で手洗い:菌数が約1/100に減少(1%)
(3)ペーパータオルで拭き取り:さらに1/10に減少(0.1%)
(4)アルコール消毒:検出限界以下(<0.01%)
12ステップ手洗い法の実践

厚生労働省では、約30秒で完了する効果的な手洗い手順を12ステップで紹介しています。またサニクリーンでも正しい手洗いを推奨しています。
<厚生労働省推奨の手洗い手順(所要時間:約30秒)>
(1)流水で手を濡らす
(2)石鹸を手のひらでよく泡立てる
(3)手のひらをこすり合わせる
(4)手の甲を反対の手のひらでこする(両手)
(5)指を組んで指の間をこする
(6)親指を反対の手で握ってねじり洗い(両手)
(7)指先を反対の手のひらでこする(爪の間)
(8)手首をねじり洗い(両手)
(9)流水で石鹸を十分にすすぐ
(10)ペーパータオルで水気を拭き取る
(11)ペーパータオルで蛇口を閉める(再汚染防止)
(12)アルコール消毒液で仕上げ
正しい手洗い方法を、動画でわかりやすくご紹介しています。
どんぐりころころを口ずさみながら手洗いをすると、菌数減少に効果的な手洗いができます。ぜひ、ご家庭でお試しください。
手洗いが特に重要な5つのタイミング
O157予防のために手洗いを徹底すべき具体的なタイミングをご紹介します。
(1)トイレの後
(2)調理の前
(3)食事の前
(4)帰宅後、動物に触れた後
(5)おむつ交換の後
O157の最新発生動向「2024~2026年の状況から見える傾向と注意点」
国立健康危機管理研究機構の感染症発生動向調査によると、2024年の腸管出血性大腸菌感染症(O157を含む)の届出数は3,748例(有症者2,294例、無症状保菌者1,454例)に達しました。
これは、2011~2023年の年間平均届出数(3,705例)とほぼ同水準であり、依然として年間3,000~4,000例規模の感染が継続している状況です
2025年には第1週から第24週(6月中旬)までで759件の届出があり、年間では約4,000件を超える可能性も示唆されています。
2026年に入ってからも感染報告は続いており、第7週(2月中旬)時点で全国から複数の届出が確認されています。
夏場に集中する発生パターン

2024年では、例年と同様6月から9月にかけて報告数が増加しています。このパターンは毎年繰り返されており、気温が高くなる夏季は特に注意が必要な時期であることが改めて分かります。
O157以外の血清型にも注意
病原体検出報告では、O157が全体の51.5%を占めていますが、「O26(13.7%)」、「O103(6.2%)」など、O157以外の血清型による感染も少なくありません。
2025年の群馬県の報告では「O157、O26、O111以外の血清型によるものが多く報告された」とされており、多様な血清型への警戒が必要です。
これらのデータから、O157を含む腸管出血性大腸菌感染症は、決して過去の感染症ではなく、現在進行形の公衆衛生上の課題であることが分かります。
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まとめ
O157(腸管出血性大腸菌)は、わずか50~100個という極めて少ない菌数で発症する危険な食中毒菌です。感染者の6~7%が重篤な溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、特に乳幼児と高齢者で重症化リスクが高くなります。2024年の国内感染報告数は3,748例に達しており、決して過去の感染症ではありません。
また、感染経路は主に3つあります。
1つ目は、加熱不十分な肉類や汚染された野菜・井戸水などの食品からの感染です。
2つ目は、トイレやおむつ交換後の手指を介した人から人への二次感染です。3つ目は、牧場や動物園での動物との直接接触による感染です。
そして、予防の基本は「正しい手洗い」となります。
石鹸での手洗いとアルコール消毒を組み合わせることで、手指の菌数を検出限界以下まで減らすことができます。特にトイレの後、調理前、食事前、帰宅後、動物接触後の手洗いを徹底しましょう。
<参考文献>
厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html
厚生労働省「過去の食中毒事件一覧」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/01.html
厚生労働省「正しい手の洗い方(PDF)」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593494.pdf
厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000168026.pdf
国立感染症研究所「感染症発生動向調査週報(IDWR)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2521-idwr.html
国立感染症研究所「腸管出血性大腸菌感染症とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-ehec-intro.html
IASR速報「動物接触関連O157集団感染」https://idsc.niid.go.jp/iasr/rapid/pr3233.html
東京都保健医療局「O157の基礎知識」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/ehec.html
東京都健康安全研究センター「成型肉の衛生」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/anzen_info/seikeiniku/index.html
福岡市「O157感染症について」https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/hokenjyo/health/infection-control/o157-1.html
奈良県「O157について」https://www.pref.nara.jp/5077.htm
上尾市医師会「O157感染症」http://ageo.gunma.med.or.jp/kansen/o157.html
消費者庁「O157による食中毒について(PDF)」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/food_safety_portal/topics/topics_001/
サラヤ株式会社「手洗いの科学」https://pro.saraya.com/pro-tearai/science/
Q&A|O157の感染経路について
Q. O157とはどんな菌ですか?
A. O157は「腸管出血性大腸菌」と呼ばれる細菌の一種で、少ない菌数でも感染する強い病原性を持っています。激しい腹痛や血便を起こし、重症化するとHUS(溶血性尿毒症症候群)を引き起こすことがあります。
Q. O157は何から感染しますか?
A.
以下が主な感染経路です。
・加熱不十分な牛肉や成型肉などの食品
・汚染された野菜・井戸水
・感染者の便を介した人から人への二次感染
・牧場や動物園などでの動物との接触
Q. どれくらいの菌数で感染しますか?
A. O157は約50~100個程度という非常に少ない菌数でも感染する可能性があります。他の食中毒菌と比べても感染力が強い菌です。
Q. 潜伏期間はどれくらいですか?
A. 多くは3~5日程度です。
Q. どんな症状が出ますか?
A. 主な症状は、「激しい腹痛」「水様性下痢」その後に「血便」です。発熱は軽いこともあります。
Q. HUS(溶血性尿毒症症候群)とは何ですか?
A. O157感染後に起こる重篤な合併症で、「赤血球の破壊(溶血)」「血小板減少」「急性腎障害」が同時に起こります。重症化すると透析が必要になることもあります。
Q. どのくらいの割合で重症化しますか?
A. O157感染者のうち、約6~7%前後がHUSを発症すると報告されています。特に乳幼児や高齢者は注意が必要です。
Q. 2024~2026年の最新発生状況はどうなっていますか?
A.
日本では毎年3,000~4,000例規模の腸管出血性大腸菌感染症が報告されています。
2024年も3,000例を超える届出があり、2025年・2026年も引き続き報告が続いています。特に6月~9月の夏場に増加する傾向があります。
Q. 家庭でできる予防法は何ですか?
A.
基本は次の3点です。
・肉は中心部まで75℃で1分以上加熱
・野菜は流水でしっかり洗う
・トイレ後・調理前は石けんで十分に手洗い
また、感染者がいる場合はトイレや洗面所を次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)で消毒することが有効です。
Q. 人から人へうつることはありますか?
A.
あります。
感染者の便には大量の菌が含まれているため、手洗いが不十分だと家庭内や保育施設で二次感染が起こることがあります。タオルの共用を避け、手洗いを徹底することが重要です。














